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FOOD

イタリアの超絶贅沢パン〜パネトーネ前編〜|池田浩明のイタリアパンラボ【第4回】

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クリスマスといえばパネトーネ

 

街にクリスマスソングがパワープレイされるようになった今日この頃。

クリスマスのパンといえばシュトーレン一強時代を迎えつつあるも、なにせイタリアびいきのサイトなので、パネトーネの話をしたい。

 

 

イタリアの代表的なパネトーネ大会「レ・パネトーネ」の表彰状

 

パネトーネは贅沢をむさぼり食うようなパンだ。

 

大量の砂糖にバターに卵、そしてレーズン、オレンジピール、シトロン。

 

イタリアに行かず本場の味が東京で賞味できる一軒こそ、護国寺のパーネ・エ・オリオ。

 

なんと、本国イタリアの権威ある大会「レ・パネトーネ」でアジア人初の受賞(パッケージ部門優勝、味部門準優勝)を果たした小林照明さんの店だ。

 

 

 

パーネ・エ・オリオのパネトーネは食べる前からちがう。

 

ヨーグルトのような、いやいやもっと高貴な、酵母やら乳酸菌やら微生物たちがわっせわっせ働いてできあがったパンに特有の甘い複雑な香りが漂っている。

 

手にとってちぎってみよう。

 

わさわさわさーと難なく縦にちぎれていく(これこそ縦によく伸びた証拠!)。

ふわっとしているので、舌に触れた瞬間、じゅわーっと溶けて、バターとか卵とか上記した発酵が作り出した風味とかお酒に漬けたフルーツの風味がどばどばどばーと脳が反応できないぐらい押し寄せてきて、軽いパニックになるほどだ。

 

 

はるばるイタリアからやってきた“種”

 

小林さんのパネトーネは、イタリアの師匠ジャンカルロ氏にもらったパネトーネ種を使って作られる。

 

一見なんの変哲もない小麦粉の生地。

 

目には見えないけど、この中に酵母やら乳酸菌やら、パンをおいしくする微生物たちがいっぱい住んでいる。

 

彼らが呼吸によってパネトーネをふくらませるとともに、おいしい香りや甘さの成分を出してくれる。

 

イタリアの空気が育んだ微生物たちが、他の土地では真似のできない香りを運んでくる。

 

「師匠は毎日種継ぎをしていた。種をもらうとき、師匠に言われました。『俺はマードレと結婚したんだ。お前に俺の子供を授けるから。この種を使えば、パンが、おまえの店の味になるんだぞ。よそと同じ味のパンを作るんじゃ意味がないんだ』」

 

ジャンカルロ氏は長年かけ、微生物の餌になる小麦粉と水を足して(これが「種継ぎ」)、パネトーネに適した微生物の「精鋭部隊」を育てあげてきた。

 

種は、継ぐ環境によって、その味をどんどん変えていく。

 

毎日餌をやり、面倒を見なくてはならない代わりに、世界でたったひとつの個性をパンに与えてくれる。

 

パネトーネ種は、パン屋の大事な子供、家族みたいなものだ。

 

 

 

(種継ぎしたあとの生地はロープで縛って保存される。類稀な発酵力のため、圧をかけないと、ビニールを突き破って爆発してしまうからだ。)

 

パン職人の緊張がマックスになる日

 

イタリアの師匠譲りの方法でパネトーネを作ると、完成までなんと5日間もかかる。

 

1日1度の種継ぎではパネトーネをふくらませるために、まだ十分ではない。

 

餌(栄養と空気)の供給をもっと頻繁にして、酵母がすーはーすーはー盛んに呼吸するアゲアゲ状態までもっていかないといけない(この息を受け止めてパネトーネがふくらむ)。

 

そのために、初日と2日目は種継ぎを4回ずつ、計8回行う。

 

酵母が十分に数を増殖させ活発になっているかの見極めが、パネトーネの出来を左右する。

 

でも、相手は微生物ゆえ、見た目ではわからない。

 

「匂いで決めてます。元気なときは発酵臭が強いんです」

 

これがすむと、3日目、4日目と2日かけて(!)バターや砂糖や卵黄を、種と小麦粉(イタリアから輸入されたパネトーネ用のもの)と水をミキサーで混ぜる。

 

バターが多すぎて1回で生地に混ざりきる量ではないという。

 

粉に対して、なんとバター60%、砂糖40%、卵黄が35%…これはとんでもない、贅沢きわまりない量だ。

 

そして、酵母が住むのにまったく適さない生地でもある。

 

こんな環境でも発酵力を発揮できるのが、パネトーネ種のすごさなのだ。

 

 

こねる機械は、イタリアから輸入したダブルアームのミキサー。

 

「『パネトーネはこれじゃなきゃだめだ』って師匠に言われて。縦型ミキサー(日本で一般的な回転式のもの)だと、生地が熱をもってしまうんです。ほどよく空気が入り、熱をもちすぎない(バターが分離することを防げる)」

 

実は、3日目にあたる日に最初は取材を申し込んでいたのだが、断られた。

 

こんな理由で。

 

「パネトーネの本ごねの日は興奮している。僕だけじゃない。パン職人はみんなそうです。僕の師匠もぴりぴりしてすごく怖かった。パネトーネの本ごねは、特別なんですよ。失敗できないっていうプレッシャー。それ以上に、パネトーネをおいしく焼き上げることって、気持ちが入らないとできないからなんです」

 

酵母のがんばり頼りの、ふくらむかふくらまないかリスキーなパン。パン職人の気持ちさえ、彼らに影響を与えるのだろうか。酵母は生き物なんだから、そうであったとしても不思議ではない。

 

そのあとパネトーネの形に成形、さらに発酵5~6時間。4日目にようやくオーブンで焼く。

 

おいしそうなパネトーネができたー!とよろこんではいられない。

 

放置しておくと、窯の中で高くふくらんだ分がしぼんでしまう。だから、串で刺して、逆さでぶら下げる。翌日までこうしておくと、やっと形が固まる。そうなれば、包装することができ、めでたくパネトーネが完成となる。

 

 

 

さて、次回、クリスマスにパネトーネを食べるのに、極上の相性の飲み物を紹介する。

 

第5回パネトーネに合う最高の1本〜パネトーネ後編〜

第3回のイタリアパンラボはこちら>

 


 

パーネ・エ・オリオ

営業時間 10:00~18:00(日月祝休み)

東京都文京区音羽1丁目20−13

TEL. 03-6902-0190

http://paneeolio.co.jp

 

PROFILE
池田浩明 _ Hiroaki Ikeda

パンラボ主宰、ブレッドギーク(パンおたく)。東においしいパン屋あると聞けば行ってパンを食べ、西にすごいパン職人がいると聞けばその声に耳を傾け、南に偉大な小麦農家ありと聞けば、土を掘り返し、小麦をむしゃむしゃ頬張る。著書『サッカロマイセスセレビシエ』、『食パンをもっとおいしくする99の魔法』、『空想サンドウィッチュリー』、『パンの漫画2 さすらいのクロックムッシュ氏』、編著に『パンの雑誌』(すべてガイドワークス刊)、『おかしなパン』(誠文堂新光社)、『日本全国 このパンがすごい!』(朝日新聞出版)、『パンソロジー』(平凡社)。

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